文:Seb Morgan 編集:下山敬之
写真:Samil Kuo、Asia Rainbow Ride、晶晶書店、Taiwan Scene
新型コロナウイルスの拡大によってイベントが中止される前は、川沿いの公園をレンタサイクルのYouBikeに乗った人々が駆け抜けていました。自転車に七色のプライドリボン(LGBTQのシンボル)をはためかせて疾走するのは、Asia Rainbow Ride(亜洲彩虹騎行)の参加者たちです。
「日常の『安全地帯』から一歩を踏み出し、プライドの旗を掲げて自転車で走ることで、初めて味わえる経験がたくさんあると思います。」と語るのは、Asia Rainbow Rideの創立者の人であるオリビア‧ウーさん。
オリビアさんとパートナーのイヴさんが、性的マイノリティ(性的少数派)活動の仲間であるリサさん、ジェニファーさんカップルとともにAsia Rainbow Rideを創設したのは、1年前のこと。彼女たちは2021年の10月に「サイクリングによるプライドパレード」を企画中です。これは、台湾のLGBTQIA+のチャリティ団体を支援する目的があり、台湾の中でも起伏の多い、北東の海岸線を回る二泊三日のサイクリング‧ツアーとなります。
また、「自分らしさを称える健康的でポジティブな活動」ということで、3月から毎月、のMRTの駅からYouBikeに乗ってサイクリングをするソーシャルライドを実施していました。残念ながら現在は感染症対策で中止となっていますが、それ以前は性的マイノリティとして自信を持ちたい人たちが交流するコミュニティとして機能。イベントを通じて、参加者たちが仲間とふれあい、新しい友人を作るきっかけとなっていました。
「最近は両親に同性愛者とカミングアウトするか悩んでいた若い男性と交流する時間を持ちました。難しい状況に直面する彼を、応援することができました」とリサさんは話します。
居場所を見つける
保守的なアジア系アメリカ人の家庭に育ったジェニファーさんは、「私が20代前半でカミングアウトした時、周りに同性愛者の知り合いは一人もいませんでした。だからこそ、自分で自分をどうしたらいいか全くわかりませんでした」と振り返ります。
2007年、ジェニファーさんはLGBTQIA+とHIVセンターを支援する「AIDS Lifecycle」というイベントに参加。「これまで、社会的に差別されていた同性愛者、HIV感染者、障がい者、それにサイクリングの初心者たちが、3000人近く集りました。ここでは誰もが受け入れられ、拍手喝さいを浴びました。その時、私は妻と出会ったんです!」。
リサさんは当時、サンフランシスコで同性愛の移住者を対象とした、HIVソーシャルワーカーとして勤務していました。二人は後にアジア、アフリカ、南米を周り、性的マイノリティの体験を記録する旅に出発。2015年にはドキュメンタリー「Out & Around」を発表しています。
台湾で多様性を満喫
「Out & Around」の旅の一環として台北を訪れた2人は、台湾のゲイカルチャーの活発さ、特に性的マイノリティの女性を支える多様性に感銘を受けました。「ライフスタイルはもちろん、オリビアに出会った場所でもある愛之船啦啦時尚概念館や、LGBTをテーマに掲げた晶晶書店などのスポットには、本当に驚かされました」とジェニファーさんは話します。
晶晶書店は台北初のフェミニズムとジェンダー問題に焦点を当てた書店で、台湾のジェンダー運動を数多くサポートしています。店内では様々な本や映像作品、アートワークを取り扱っています。
イブさんも、初めてカミングアウトした際に、台北の文化に支えられたと語ります。「台湾に初めて来たとき、私はLGBTQIA+の一人としてまだ日が浅く、コミュニティの情報を得る方法を模索していました。まずレインボーフラッグを買ったんですよ。これが私!と表現できる物が欲しかったんですね」。
イブさんが育ったシンガポールの文化はとても保守的なため、自分のアイデンティティの公表はかなり困難です。「老若問わず、性的マイノリティの人たちが、手をつないで歩いている様子を目撃したことは、私にとって大きな変化でした。そして、台湾LGBTプライドのパレードに多くの人々が集まっていることは、さらに大きな衝撃でした」。
リサさんも同様に考えています。「アジアでは性的マイノリティのアイデンティティが無視され、西欧独自の個性とみなされてきた歴史があります。ですが、台湾にはLGBTQIA+コミュニティを底上げする力があります」。
「Asia Rainbow Rideが行うイベントは、日本やシンガポールからも参加者が集まります。お互いの考えを共有できる場所として、大きな意味があります。他人の目を気にせず、安心して新たな友情が育める場所です」。
「こういうライフスタイルもあるんだ、と実感してほしいですね」とジェニファーさんは付け加えます。
一体感を感じながらのサイクリング
Asia Rainbow Rideは、単純に海岸沿いの景観を満喫するイベントではありません。参加者が新たな友情を育み、台湾の性的マイノリティのコミュニティを知るチャンスを与える活動です。昨年のイベントでは、海沿いのホテルに宿泊し、映画の上映会、ドラァグ‧ショー、ビーチでのヨガなどを楽しみました。
イベントはサイクリング未経験の方も参加できます。「去年の参加者の大半は初心者か、中級者でした」とリサさんは言います。ペースによってグループ分けし、さらに電動自転車や救助用の車も並走しているので安心です。
安全性と支援を軸に企画されているので、参加者に思い切り楽しんでほしいとオリビアさんは願っています。
また、イベントを支援する非営利団体が、台湾やアジア全体で起きている問題について「イベントがこういった団体の資金を集め、その活動の支援をしたいと考えています」とリサさんは思いを吐露します。
奇跡の輪を広げる
Asia Rainbow Rideの収益はすべて、台湾を拠点とするつの非営利団体台湾同志諮詢熱線協会、台湾紅絲帯基金会、彩虹平権大平台)に寄付されています。これらの団体は、2017年の同性婚認定を実現させた立役者であり、活発なロビー活動を行った団体です。
台湾はアジアで初めて同性同士の結婚を合法化した国です。このことはLGBTQIA+の人たちにとっての大きな一歩でした。ただ、Asia Rainbow Rideはこれで終わりにするの
ではなく、より多様化された寛容な社会を作り上げていくことを望んでいます。
「LGBTQIA+と聞くと、固定概念で考えてしまいがちですが、実際には高齢の人々や親御さん、養子が欲しい人など様々です」と話すオリビアさん。リサさんは「これらの非営利団体は、本当にわずかな予算で奇跡を生み出しています。なので、彼らの活動をさらに拡大していくことが大切だと考えています」。
過去20年間の大きな進展にもかかわらず、コミュニティの主流から外れた人々は、まだまだ多くの課題を抱えています。その1つがHIV差別です。台湾衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)が2017年に行った研究では、HIV感染経験のある回答者のうち5人に1人が家族からの差別を経験。さらに病院での診察を拒否された経験があると報告しています。
「これらはもっとオープンに語られなければいけません。こうした話題を避ける人たちに、声を届けたい。無視しても問題は消えないと気づいてほしいです」とオリビアさんは語ります。だからこそAsia Rainbow Rideは未来に目を向け、一緒に何を創造していけるのかに焦点を置いた活動を続けています。
サイクリングは楽しいアクティビティですが、台湾ではさらに意味のあるプロセスへの参加にも繋がります。それを実現できるのがAsia Rainbow Rideです。
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